《ゆ》
アメリカに来て、昨今のテクノロジーの進化に感謝することが多々ある。 昔は海外に電話するとすごくお金がかかったと思うけど、今はFacetimeやメッセンジャーで毎日1時間以上M也と話ができる。かつては日本の本を読むのは相当難しかったと思うけど、今ならKindleでいつでも買える。すごい時代だな。というわけでひきつづき読書感想文。
・「Black Swan」Nassim Nicholas Taleb
邦題は「ブラックスワン―不確実性とリスクの本質」で、リーマンショック前に金融危機を予測していたような本じゃないか、ということで超話題になったらしい。
経済学では、正規分布を想定した統計学や数理モデルで現象を説明しようとするが、実際には正規分布から超外れた、「そんなこと何億分の1しか起こりえない」というような「ブラックスワン」の事象が世の中を大きく動かしている。実際、過去50年間のうち、たった10日間で金融上の半分のリターンがうまれており、そういった「起こりえない」と思うような事象が全体のうちの多くの結果をもたらしている。学者は、自分が綺麗に説明できるこの世の半分も説明できない正規分布の中の出来事にとらわれて、そこだけチクチクいじくってるけど、ブラックスワンについてもっと考えよう!ってな本です。多分。
じゃあ具体的に、正規分布的な世界でとらえられない異常値をどうやって捕まえるか。
ベースにある規則性が1,0で半々で起こるような事象は正規分布で説明できるけど、ベースの規則性が複雑である場合は正規分布で示すことはできない。でも一部はExponential(指数的、掛け算的のほうがいいのかな?)な現象なので、対数で処理すれば正規分布として扱うことができる。生物系の統計だと、血中のコレステロール値は正規分布のように存在するが、炎症系の反応(インターフェロン等)とかドカンと増える血中パラメータは掛け算で増加するので、指数関数的に増加する。なので、logでくくって扱うことがある。指数的な関数でなくても、よくみると規則性があるような変数は、サイズは違えど形は繰り返される規則があるフラクタルとして取り扱うことができる。
しかし、実際の経済はそれだけでは説明できない。多分普段の経済指標は複数の変数の波が足し合わさってできているので、分解すれば、正規分布に近似できる変数もあるし、指数関数的に扱う必要のある波もあるし、もっと複雑系の波もあると思うけど、でも経済ってそういう連続的に存在しているもので動いているわけではない。これまで存在しなかった別の変数、例えば想定もしてなかったテロの影響、とか地震とかが突然飛び込んでくるような世界だから、完全に過去の波から説明できないブラックスワンが登場するのはメチャ理にかなっている。だから一部の現象しか説明できないものにとらわれないでブラックスワンをもっと解析しようという。この本は、現在の経済学をバカにしまくってるのがウリなので、ほんとはちゃんと学者が考えてる部分も無視して説明しているところはあるけど、読み物として、私のような一般人が予測しない出来事の存在を理解するうえでは良いと思った。
じゃあ、予測できないことが起きるのはわかったけど、具体的にはどうすればいいか。予期しない出来事には、当然リスクもあれば、良いことだってある。多くの人が予期していなかったが「セレンディピティ―」ですごい発見しちゃって、革新的な技術で一気に株価があがるベンチャーとか、良い予期せぬ外れ値もあったりする。だから「良いブラックスワン」をできるだけ捕まえて、「悪いブラックスワン」のリスクに備えるというのができること。良いブラックスワンに出くわすためには色んな機会を得るためには、良い偶然を捕まえるために出かけましょう!みたいな話です。
私は全く投資とかしないのだけど、この理論で行くと、ベンチャー企業の人とか良いブラックスワンが出そうなところをウロウロして、当たりそうな企業に少量だけ投資して、あとは安定資産にしろ、インデックス投資なんかしてもダメ、みたいなところに落ち着くかしら。(そんな本じゃないし!って凄いダメだしされそうな解釈だけど)。まあ日本語で読んでも多分分からない内容が多かったので、このくらいの理解でしょうがない。
経済の本って全く興味なかったけど、自分が持ってる自然科学的な知識とか哲学がすぐ応用できるのを知り、俄然超オモシロイと思えるようになった。多様なことが起こる世界に科学的な思考を応用しようとするという意味では経済学も生物統計とかも一緒だな。今度はピケティ様とか読んでみようかしら。
推定2008年。まだ科学系サラリーマンだった頃の私。必死のクレイジージャムR.P.
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